インプラント治療での術式や方法についてくわしくご説明していきます。
治療方法や術式も年々進化し、患者さんの身体に負担の少なくなる方式などが出てきました。
これからインプラント治療をお考えの方にも簡単に分かりやすく解説しています。
注意しなければならないのは、くれぐれも患者さん側から「この方法で!」と、治療法を歯科医師に指示するものではありません。決めるのは術者である歯科医師が決める事です。
最初の歯科選びの時点でどのような治療法を提示されるかは、診断を行なった歯科医師が決めることです。
多くの欠損歯を放置している方が「フラップレスが良いなあ〜」とか、無理な治療法のお願いを言っているようなものです。
末期ガンで転移がいっぱいの方が、内視鏡での切除を希望しているようなものです。
いくら患者さんが希望しようとも、不可能なものは不可能ですから!
上手な大工さんが高度なテクニックを駆使して砂場に家を建ててもダメになるのは安易に想像できますよねwww
今まで歯に何もしてこなかったのに悪くなったからといって「ハウツー」(都合の良い方法ややり方)だけを求めて、調べて、心配しても上手くはいかないでしょう。
あくまでも提示された術式への知識としてお考えください。
インプラントの術式:1回法、2回法について
インプラントの術式は、大きく分けて基本的に1回法と2回法の2つです。
抜歯が必要な場合と治療箇所によってはインプラントを即埋入した方が良い場合があります。
1回法=基本的に1ピースインプラントを使用
2回法=基本的に2ピースインプラントを使用
最近は、2回法のインプラントでも1回で終わるようなシステムもメーカーから発売されており、採用している歯科医院もあります。
即時荷重といって、2回法でもその日に噛める方式を採用している歯科医院もあります。
即時荷重インプラントは本来、奥歯などのインプラント治療では抜歯して骨の状態が落ち着くまでしばらく待ってから行うのが主流でしたが、2016年頃から採用する歯科医院が増えてきました。
この治療のパイオニアのセミナーや勉強会を受け即時荷重インプラントを行ってますが、パイオニアと同等の診断力と技術があるかどうかは別問題です。
即時で行うには賛否両論があり、別に即時荷重でなくても良いという意見もあります。
1回法インプラント
1回法のインプラントでは、歯肉を切開しインプラント体(フィクスチャー)を埋め込み、構造上、インプラント体の頭(アバットメント部分=被せ物の土台となる部分)を露出させたままの状態です。
左の長いのが1ピース。1ピースは支台部と一体構造になっています。
右2つのインプラントが2ピースのフィクスチャー部分。
骨に埋まってしまう部分です。
通常であればだいたい3ヶ月~5ヶ月の治癒期間で骨と結合(インテグレーション)すると言われています。
最後に人工歯(上部構造)を固定して完成です。
主に国産メーカーのミューワン、ブレーンベース、AQBなどのメーカー製品で(他にもある)、表面にHA(ハイドロキシアパタイト)コーティングを施しているインプラントが特徴です。
このHAの表面構造はメーカーごとにちょっと特徴が異なります。
骨と付くまでの期間も比較的短期間で親和(インテグレーション)し、身体への拒絶も少なく成功率も高いといわれています。
ネックは、初期固定しやすいが、最初から飛び出た部分(アバットメント)が構造上噛めてしまうことです。
1回法なので2次手術が無く、結合後に印象(歯の型取り)をして上部構造(被せ物)をアバットメントに装着します。
2回法インプラント
2回法の術式では1次手術で歯肉を切開し、インプラント体を埋め込み、切開した歯肉を閉じて縫合し3ヶ月~6ヶ月の治癒期間で安定させます。
2次手術で再度歯肉を切開し、アバットメント(セパレートの上の部分)を装着、仮歯やカバーをかぶせるなどして1ヶ月安定させます。印象(歯の型取り)、メタルボンド、ハイブリッドセラミック、ジルコニアなどの上部構造(被せ物)を装着して完成です。
※医院によってはアバットメントがメーカー純正ではない医院オリジナルの物を作って使用しているところもあり、確認したほうが良い場合もあります。
海外メーカー ストローマンSLA オステム ブローネマルク アストラテック など
国産メーカー プラトン など
特徴は、金属アレルギー(希なチタンアレルギー)でも、非メタルのインプラント治療を行える事や、サイズが豊富な事。
ネックは接合部もネジなので緩みやすい、横からの力に弱い事が挙げられますが、最近は緩みにくい構造の製品も出ているので、構造上の弱点は解消されつつある。
1回法と2回法のメリット・デメリット
今まで一般的に多く行われていた術式である2回法は、1回法に比べたら技術を要します。
比較的簡単な1回法は、治療工程が少ない分、遠方からの患者さんにも埋入後に仮歯をつけてお帰りいただいたり、完成までの時間が圧倒的に短いのがメリットですが、あまりにも簡単と安さをアピールする歯科があるので注意も必要。
しっかりと術後やメンテナンス、保証、万が一の時も考慮しなければいけない。
骨とくっつく時点でHAコーティングがなくなる構造のインプラントや、HAコーティング層が厚く、骨と結合してもコーティング層が残っているインプラントなどメーカーによって構造が異なります。
ただ、HAコーティング層が厚いのインプラントは歯周病に弱いとも言われています。ですがその反面、論文などで人工骨(骨材料にもよりますが・・・)などでの骨造成にHAは向いているとも言われています。また、骨造成無しでも骨との結合が早いとも言われています。
前歯のインプラント治療であれば、1ピースのインプラントは、抜いた歯と同じ方向でインプラントを埋入するともともとも構造上から出っ歯になるので、よってアバットメント部分を削らなければならないのです。
2回法のインプラントは、アバットメントがまっすぐ一体型の1ピースインプラントと異なり、アバットメントで向きを変えられるのです。
なので、一般的に前歯部などは審美的に2ピースが良いとされています。
以前は2ピースはフィクスチャーとアバットメントの接合部があるので横からの力に弱いと言われていましたが、構造設計が年々変わりバージョンアップを経て強度は強くなってきました。
抜歯後(EXT・エキスト)にインプラントをする術式
インプラントは事故などで歯を既に失った方に治療が行われることもあれば、歯周病や虫歯などの理由でダメになった歯や歯の根っこを抜歯してから行うこともあります。
前歯か奥歯かでも異なる場合もあり、上顎か下顎かによっても違う場合、骨の状態や口腔内の清潔環境の状態によっては抜歯後即埋入に向かない場合もあります。
奥歯などでは・・・抜歯して数カ月で骨の状態が落ち着いてからインプラント体を埋め込む手術をします。
前歯などでは・・・歯槽骨にダメージを与えないように丁寧に抜歯し、抜歯後の穴が治るのを待たずに、インプラント体を埋め込む。
骨量が足りない場合は骨造成手術を行う場合もあります。
患者さんの状況によっても違う場合もあり、先生によっても見解が違うので、確認する事が望ましいです。
一般的に歯科では抜歯は【エキスト】、【抜直(ばっちょく)】とか【抜歯後即埋入】と言われています。
難症例の術式:サイナスリフト法
サイナスリフト法(Sinus-lift procedure) は、インプラント治療に伴って行われる骨増成手術の一つで「上顎洞底挙上術」と言われています。
この方法は上顎の複数本の埋入手術に用います。
名前が表すとおり上顎洞底にあるシュナイダー膜を挙上して増骨し、インプラントが可能になる骨量を確保しインプラント体を埋入させる術式です。
上の写真でもわかる通り、インプラント体が埋まるように骨がなければいけない。
見ての通りその上は空洞になっている。
ソケットリフト法に比べ歯肉を開く範囲が大きいので外科的侵襲性は高いが、術者の視認性は良い。
上顎臼歯部の上部には上顎洞と呼ばれる空洞(サイナス)があるが、人により洞底線が下方まで伸びているため、インプラント体の埋入に必要な量の骨が確保できない場合に用いられる。
サイナスリフトは上顎洞粘膜(シュナイダー膜)を上顎洞から剥離して挙上、その挙上によってできたスペースに人工骨や他部位から採取した自家骨を移植する事により上顎洞底線の位置を上げ、インプラント埋入手術に必要な骨の厚みを獲得する方法です。
先生の間では、より安全に行うには50症例経験、100症例経験が必要とも言われている。
サイナスリフト法はソケットリフト法に比べて切開範囲が広く視認性が高いが、骨造成やシュナイダー膜の挙上など切開範囲が広いので、多歯欠損の患者さんのインプラント治療では必要不可欠な治療法。
なるべく低侵襲を考えて、切開器具にピエゾサージェリーなど超音波(超音波式骨削器)を使用した治療を行う事が多いですね。
外科的侵襲(侵襲性が高い)=切り開く範囲が広いので、術後の腫れがソケットリフト法にくらべて大きいのは仕方がないですね。
逆に、ソケットリフト法は切開範囲が狭い分、暗闇に手を突っ込む感覚と言われ、シュナイダー膜を破ってはいけない為、サイナスリフト法よりもさらに高度なテクニックが必要と言われている。
低侵襲治療(腫れにくい)を考える歯科医院ではこのような設備を整えているところも多いです。
難症例の術式:ソケットリフト法
サイナスリフトが複数本に対し、ソケットリフトは本来限定1箇所に用いる骨増成手術の用語。上顎洞底のシュナイダー膜を挙上し、インプラントを埋入するための高さを獲得する。場合により人工骨などの骨補填材を入れる。
サイナスリフト以上に、熟練の技術を要します。
その理由は視認性がサイナスリフトは広範囲の切開範囲を伴う反面、ソケットリフトは切開範囲(ウインドウ)が小さい分視認性が悪いので高度な技術や経験が必要な理由。
先生が言う感覚としては「暗闇に手を突っ込む感覚なので場数がモノを言う」との事。
サイナスリフトよりも侵襲性は低いが、どちらも外科的治療なのでまったく腫れないとは限らない。
腫れる腫れないは個人差がある。決して腫れたから先生が下手とか上手いとかいう事ではなく、患者さん本来が持つ治癒力や抵抗力に関係している。そもそも身体には存在しない人工骨やチタンなどの異物を入れているためである。
もちろん全く腫れない方も稀にいる。
最近は、サイナスリフトが必要な場合でも低侵襲を考慮し、ソケットリフト法を連続して行う歯科医師の先生も増えてきたが、視認性が低いため、シュナイダー膜を極力破らないためにかなりの経験が必要と言われている。
all-on-4(all-on-6)
総入れ歯の方や多くの歯を失った方に、4本のインプラント体をバランスよく骨に埋入する手術のことです。
その日に固定式の仮の歯を装着しますので、比較的すぐに噛むことができますし、機能面だけではなく審美的にも自然です。
土台を4本で支え、連結した被せ物で一箇所に掛かる力を分散するというふうに考えればわかりやすいですね。
この被せ物の連結を全部一体型にするのか数分割するのかは先生によって考え方が異なるが、将来的にどこか一箇所が悪くなった時のことを考え被せ物を数本単位で連結する方法を取る先生が多い。
骨が薄い場合、これまではインプラント治療をあきらめるか、あるいは大がかりな骨の移植手術をしてからインプラント治療に臨むしか選択肢が無かったが、このような場合にも、このall-on-4(オールオンフォー)であれば移植手術なしにインプラント治療をすることができます。
埋入の本数は、骨の状態と関連するので医院で相談し、最適な本数を決定します。
埋入後は、ほとんどのケースがその日のうちに仮歯(テック)で固定されます。
今までの歯がない状態から噛めるようになったことにより、最初は慣れるまでの期間がかかる場合もある。噛み合わせなども調整が必要。
じっくりと噛み合わせは時間を要して調整するので焦りは禁物です。
※all – on – 6や8で行われる場合もあります。インプラントの埋入を、6本や8本行い、上部補綴(被せ物)を10本で行うことも多いです。
フラップレス
メスを使わない、歯ぐきを切開しない方式の治療法です。
どう考えてもこの術式が適合しないボロボロの口腔内の状況の患者さんがこの術式を希望して、歯医者さんに治療を断られたという相談もありましたが、「貴方には残念ながらこの術式は無理ですよ!」という事なのです。
メリットはメスを使わない、歯茎を切開しないので術後に縫う必要もなく外科的侵襲が少ないので、痛みにくい、腫れにくいというメリットがあります。
インプラント体(フィクスチャー)は外周を骨の中に完全に埋入することが必要です。
しかし、フラップレス手術は歯肉を切開しないので、骨の状態を確認することができないのです。
安易にフラップレスでインプラント埋入を行なうと、インプラントが完全には骨の中に納まらないない場合があります。
治療前の診断で「ガイド」と呼ばれる型を作り、CTなどからのデータで計画した箇所に正確に埋入しなければならないなど、綿密な診断、治療計画が必要です。
PRP・CGF
PRPやCGFは人間本来の自然治癒力を治療に応用し、自分の血液を利用した治療法です。
患者さんの血液を採取し遠心分離にかけ、濃度の高い血小板を取り出して治療に使用する方法です。
PRPは多血小板血漿(たけっしょうばんけっしょう)(Platelet Rich Plasma の頭文字をとってPRP)と呼ばれ、インプラント治療の場合にはを患部にあてます。
CGF(Concentrated Growth Factors)は、インプラントを行うにあたって骨が足りない時にGBR(骨再生誘導療法)が必要とする場合に人工骨と混ぜて使用したりします。
あのヤンキースの田中将大投手が肘の治療を行なった時にはPRP療法で、自分の血液を採取して分離して取り出したフィブリンゲル(ゼラチンみたいに凝固したもの)を患部に入れて、腱などの再生を行なったのと同じ方法と考えれば分かりやすいですね。
PRPとCGFの違いは凝固剤を使うか使わないかの違いです。
自分の血液を使い、人間本来が持つ自然治癒力を応用しているのが特徴ですので人工物を使わないと言う点はメリットがあると思います。
この方法を採用しているから良い歯医者さんとか、採用していないから良くない歯医者さんとかそう言った基準で歯科選びを行うものではありませんのでくれぐれもそのような歯科医院の探し方をしないように。
大口式って??術式??
大口式インプラントとは岐阜にある歯科医師の先生の名前がついている方法の名称。
サイナスリフトやソケットリフトみたいな世界の歯科業界のworldwideな術式の呼称ではないです。
具体的に説明すると、通常のインプラント手術では骨にドリルを使用するが、前歯の部分など骨幅がない場合にはドリリを使わずキリのようなもので骨幅を広げインプラントフィクスチャーを埋入する。
要は、インプラントフィクスチャーの外周ぜんぶに骨を纏わせなければならないのですが、ドリルを使わずに削らず、キリのような細い器具で骨を広げて行う方法です。
経験値が高い先生は同じようなドリルを使わない方法までやっていくうちに、自然に到達し、似たような方法で治療に応用している先生もいます。
では、通常の方法と大口式と何がどう違うのでしょうか?
「当院は大口式を採用してます!」と名乗るには、講習会に参加し、特定業者から専用のツールを購入(ものすごく高い)しなければ名乗ることができないと言われています。
そのツールセットは日本の名工(鍛治職人)が作った良いものらしいのですが、別にそんなものが無くても出来る〜という先生もいらっしゃいます。
中には「別に買ってないけど患者さんには大口式って言っているよ〜」という先生も。
昔は少なかったかもしれませんが、今は普通に骨を広げる方法を行える先生は経験を積んでいる先生の中にはたくさんいらっしゃいます。
患者さんの「ドリルが怖い」というイメージを払拭したパイオニアであることに間違いはありませんね。
この方法だから凄い!とか、この方法だから安心!ということには直結しないので、そのへんはお間違えのないように。
この方法はケースバイケースなので、患者さんはそんなに心配しなくても良いかもしれません。